白露

白露(しらつゆ)の瞬きを目に留めたのは私だけ。一瞬、ほろっと、解(ほど)けそうになる、一瞬だけ。零れないように、滲まないように、そっと目を逸らす。気の迷い、気の迷い。風が冷たくなると、何かが許されるような気持ちになるものだね。そっと、しっかりと、心に秘めておく。秘め直す。秘め事は秘め、また歩を進める。

白露(はくろ)white dew:White dew stays on the grass.

 Photo by そよ それは、オレンジ色の鳳凰が飛び交う夕暮れでした。 素足の爪先には、まだ夏の天色(あまいろ)を残しながら、 日に焼けた半袖の腕を、薄もので微かに隠す頃。 でも、実は緊張のあまり、ほとんど覚えてはいないのです。 ただ、「始まってしまう」ということだけは、 逃れようのない事実なのだと感じていました。

禾乃登(こくものすなわちみのる)Rice ripen.

 Photo by そよ 他に何が選べただろう? 選べないと思い込み、選ばなかったものは何だろう? とにかく、収穫の時は来たのだ。 がっかりするのも権利だろうか? 少なく見えても重みのある果実は、その手の中にあるだろうか? *** 月は満ち、やがて翳ってゆく。 僕らの指先には、もう熱の名残もない。 厳密には、あの時の熱の名残は、もう、ない、のだ。