雨水

命を湛えた体を破って、芽を出す。一つの賭けに出る。メッセンジャーとしての使命を知っていて、あなたは身を投げ出すのですか?

立春

いつもの窓際の席で、隣り合わせに座る。陽が差し込んで、あなたの横顔は輪郭だけになる。新しい季節が何を変え始めるのか、ふと心細い。まだ、こっそりここで、寒さ凌ぎを口実にしていたいのだけれど。

冬至

クリスマスなんて、本当はどうでもよかったの。日が暮れて少し心細い帰り道、同じ家に辿り着くことができれば、それでよかったの。ディナーテーブルをあなたと囲んでさえいれば、それで十分な私がいた、そんなあの日。

大雪

街々は色合いを変え、人々はいそいそとして見える。急ぎ足の先にどんな特別なことが待っているのか、私には少しの関係もないことだけれど、何かが読み取れるかのように覗き込む。

小雪

少し背伸びしたシックなロングコート。照れくさくて、「いいんじゃない?」という母の顔を見られなかった15歳の私。襟元にまとわりついていた、予感のような秘密ゴトのような微粒子の気配を、今でも思い出すことがあります。

立冬

空気がろ過されていく。堤防をぶらぶら手を振って歩く。ポケットに突っ込んだ未練も、ちゃんと置き場所が見つかるまでは、そのまんま。チャリン、チャリン、鳴って透明になっていく。頬がひんやりして心地良い。

霜降

そろそろ手が冷たいよ、と話しかけながら鳥かごの掃除をする。私は洗う手を速め、鳥は水色の体をふわぁっと膨らませる。私のおしゃべりに、いつも首をかしげるだけの、一番やさしい、一番の友だちだった。

寒露

風が変わってきたね。指先で芝を撫でて、ひとつまみ風に乗せる。見慣れているはずの景色が少しだけ霞んで見えて、靴先の露に気がつく。風は北から南。わずかに左傾斜。強気で行く。

秋分

死は生を際立たせ、毒は美を際立たせ、風は存在を際立たせる。今年もまた、川辺に立って向こう岸を眺める。私は、生きている。私は、美しく、強い。

白露

白露(しらつゆ)の瞬きを目に留めたのは私だけ。一瞬、ほろっと、解(ほど)けそうになる、一瞬だけ。零れないように、滲まないように、そっと目を逸らす。気の迷い、気の迷い。風が冷たくなると、何かが許されるような気持ちになるものだね。そっと、しっかりと、心に秘めておく。秘め直す。秘め事は秘め、また歩を進める。