雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

長くなった煙草の灰が、皺の寄った指先の制止をかすめて落ちる。「しまった」という表情の祖父の傍らに居た祖母が、嫌味をたっぷり盛って「言わんこっちゃない」という顔になる。まだ炎の残っていた灰は、こたつ布団のカバーに小指が通るほどの穴を開けて、幸いにも消えた。 「おじいさん、ほおらまたこたつ布団に灰を落として…」 「だからこたつで煙草を吸うのはよしなさいって言ってるのに…」 「煙草が心臓にも悪いってお医者様がどれだけ…」 さあ始まるぞ、と思いながら、座ったままこたつ布団を耳のあたりまで上げる。祖父の禿げ上がった頭が、徐々に怒りで赤く染まっていく。この祖父母を知らない人にはきっと、心臓に良くないだろう。 「うるさい!!!このくそだわけ、誰がこの家の主だと思っとる!!!!」 腹からここ一番の音量を出す祖父の怒声が、耳をつんざく。数十年を経て慣れっこになっている祖母はといえば、半ば面倒臭そうな、半ばからかうような態度で、轟きわたる罵声を意に介さず浴びている。二人がハッスルした時は、トムとジェリー並みにコミカルな追いかけっこすら始まった。 昭和の雷親父だったな、と、歳月に色褪せた祖父の写真を眺めやる。祖父の怒声はいつも桁外れだったけれど、怖かった記憶がまったくないのは、自分が初孫で愛されていたからだろうか。中学生の頃に、祖父が先に。祖父を追いかけるように…というのとは程遠く、あの人を食った態度で子供たちを何年も困らせた果てに、祖母も逝ってしまった。 すっかり暖かくなったというのにしまいそびれたこたつ布団を、あの頃のように耳まで上げてみる。今宵、春の嵐に轟く雷鳴はもしかしてあの二人かしらん、と、ちょっと笑いながら。 Advertisements