蒙霧升降(ふかききりまとう)Thick fog begin to form.

 Photo by そよ もう夏には飽きた。 思わず、そう声を上げたくなるほど。 いやいや、苛立ちは自分に対して、だよ。 わたしは、わたしに飽きてきたのだ。 何という罪。 何という空。 夏を舐めるな。 自分を舐めるな。 まだ石碑になるには、早いんじゃ。 *** 音花火、三歩遅れてついてくる。

立秋(りっしゅう)start of autumn:Times when we feel the sign of fall.

 Photo by そよ 秋は遠く、星は遠く。 湿度の高い毎日に、月は見えぬままだろうか。 夏は、まだ踏みとどまっている。 その往生際とも呼べる家路。 グラデーションでボーダーを描く空。 クロールする雲。 ゆったりとゆったりと、お話は続きます。 君の顔は思い出せるか。 君の声は思い出せるか。 *** その年、父は最後の夏を過ごしました。 真夏の一時帰宅、それは結果的に、わたしたち家族が祝う父の最後の誕生日を彩ることとなりました。 父のために買ったバースデーケーキは、暑い季節にそぐわないチョコレートたっぷりのものでした。 まだ3歳だった小さな姪は、このケーキが誰のために用意されたものなのかを正しく心得、 カットしたケーキの端っこをスプーンですくい、テーブルの中央に座る父の口元へと運びました。 その時のわたしたちの拍手とささやかな歓声は、父のひと言と涙に溶け落ちました。 「わし、こんなん初めてや…」。 父の生きた子ども時代には、まだケーキを囲んで祝う習慣もなかったのでしょう。 大人になってからも、父のためにケーキを用意したことはありませんでした。 最初で最後のバースデーケーキでした。 *** 蝉の奏でる倍音に包まれて、それはもう耳鳴りと変わらない。

蓮始開(はすはじめてひらく)Lotuses begin to bloom.

 Photo by そよ 永遠の中の刹那。 刹那の中の永遠。 その入れ子式のメビウスの帯。 DNAの螺旋のような。 ワームホールを潜り抜ける、虚と無と空、そして実と有と在。 はい、蓮の花が咲きましたよ。 お盆を過ぎる頃には、あのシャワーのような花托を設営しますね。 *** 人は窓枠であり、同時にその窓に映し出される世界の住人でもあるのだと思う。 そして、言葉もまた窓枠であり、その向こうにある世界そのものだと言えるのだろう。 蝉が今年も短い命を謳う。