橘始黄(たちばなはじめてきばむ)Mandarin oranges begin to ripen.

 Photo by そよ ミュシャの絵の柔らかいベージュ、オレンジ、萌黄色が、 日本家屋に合うということを知った時、 わたしは自分が齢を重ねたのだと感じました。 それは、すべての生き物が持つ曲線のひとつを、 わたしも持っていると知ったのと同じことです。

虹蔵不見(にじかくれてみえず)Rainbows have retreated.

 Photo by そよ あの日、あの瞬間、心の端っこを持って行かれたまま、 幾つもの季節が過ぎ、今また出会えたね、愛しい人。 虹は見える角度とそうじゃない向きがあるよね。 見えても、あっという間に消えてしまうし、 かと言って、なかったことにはならない夢だね。 それはもう「決して忘れないよ」とか、 「信じているよ」みたいなことでもないんだよ。 いくつかの奇跡の重なりによって現れ、 ひとつふたつと、それが解ければ、消えていく。 またの奇跡には期待せず、自分の時を歩むことだけが、 次の便りを連れてくるのだとしか思えません。

小雪

少し背伸びしたシックなロングコート。照れくさくて、「いいんじゃない?」という母の顔を見られなかった15歳の私。襟元にまとわりついていた、予感のような秘密ゴトのような微粒子の気配を、今でも思い出すことがあります。